オンライン・セミナー「持続可能な森林とは?」報告

オンライン・セミナー「持続可能な森林とは?」報告

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【オンラインセミナー】
トークセッション「長野県気候危機突破方針を読み解く」シリーズ
「脱炭素まちづくり」編
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「脱炭素まちづくり」サステナブルな地域。
豊かな自然と、実り豊かな農山村、賑わいのある街なか、それを次の世代に引き継ぐ。

【2020年8月22日・29日、9月2日/オンライン(zoom)】

オンライン・セミナー「持続可能な森林とは?」報告

■講師:池田憲昭氏(ドイツ在住・Arch Joint Vision社代表)

●8月22日(土)14:30~17:30
14:30〜“脱炭素まちづくりと持続可能な森林” 自然エネルギー信州ネットより趣旨説明

15:00~16:30 池田憲昭さんレクチャー
①“持続可能な森林とは?”
 恒続林とは
 森林のゼロカーボンへ果たす役割
 災害と森林保水力
 森林の持続可能な経営

16:30〜17:30 グループディスカッションと質疑応答

●8月29日(土)15:00~17:30
15:00~16:30 池田憲昭さんレクチャー
②“私たちが何をすれば持続可能な森林は可能か?”
 森林の持続可能な経営
 森林道の重要性
 森林木材クラスター産業
 適切なバイオマス利用は?

16:30〜17:30 グループディスカッションと質疑応答

●9月2日(水)19:00~21:30
19:00~20:30 池田憲昭さんレクチャー
③“持続可能な森林は地域の生活を豊かにする”
 森林の多様性と地域(幼稚園、リクリエーション、家具)
 地域の木材を使ったパッシブでサステナブルな家づくり

20:30〜21:30 グループディスカッションと質疑応答

【講師略歴】
池田憲昭氏。
Arch Joint Vision社代表。
20年以上ドイツに住み、ドイツ語学文化(岩手大学)と森林環境学(フライブルク大学)の知識をベースに、2003年より、フリーランスとして、森林、農業、木造建築、再生可能エネルギー、地域創生などをテーマに、欧州視察セミナーのコーディネートやコンサルティング、日独事業のサポート、執筆を行なっている。
異文化コミュニケーションセミナーのトレーナーとしても日独企業の良好な共同作業を支援。
2010年より、ドイツの森林官らと、日本の森林事業のサポートとコンサルティングを行なっている。


Arch Joint Vision社(ドイツ) 代表 www.arch-joint-vision.com 
Smart Sustainable Solutions 社(日本)代表取締役 www.smart-sustainable-solutions.jp 
MIT Energy Vision GbR 社(ドイツ)共同経営者 www.mit-energy-vision.com
ドイツ バーデン‐ヴュルテンベルク(BW)州 ヴァルトキルヒ市在住

主な著書「100%再生可能へ!進化するエネルギービジネスーポストFIT時代のドイツ」(共著)
『100%再生可能へ! ドイツの市民エネルギー企業』(共著)
「100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域」(共著)
「森と人間社会 –中欧の森から」(共著)

●報告 第1回


2020年8月22日(土曜日)に開催した「持続可能な森林とは?」。
合計、80名以上の参加者で、好評に終わりました。
持続可能な森林が、ゼロカーボンや災害対策など、
多面的な役割を持てることを学んだなど、とてもよかったとの感想もいくつもいただくことができました。

・まず、日本の森林はドイツより、日照量も降水量も多く、土壌が大変豊穣であること。

・よって、毎年の成長量も大きく、「持続可能な森林」=毎年の成長量分だけ切り取る、
の量も多く、可能性がとても高いこと。

・しかし、皆伐して一斉に植林するのは、コストがかかる上に、どの土壌を壊してしまうこと。

・豊かな土壌は、森林自体以上に炭素固定をする場合が多いこと。

・豊かな土壌と森林は、皆伐を繰り返す山より保水力が圧倒的にあること。

・持続可能な恒続林(Dauerwald)は、広葉樹と針葉樹の混じった混交林を目指す。
そのために、成長させる「将来の木」を選定してその周りの2、3番手の木だけを間伐すること。
多様な樹種が多様な樹齢で存在することは、将来の木材需要の変化、気候の変化にも対応しやすい「ポートフォリオ」を生成すること。

など、持続可能な森林の役割と、地域林業への恩恵が豊富なデータと研究結果をもとに語られました。

引き続き、では、具体的に何を行えば持続可能な森林に変化していくのか。
森林業として、どのように木材のカスケード利用をしていくのか。
バイオマス利用は廃材を活用する手段として、どう活かせばいいのか、
などをテーマに第二回を土曜日の29日に開催します。

●報告 第2回


先日の29日に開催しました第2回目の“私たちが何をすれば持続可能な森林は可能か?”
70名ほどが参加され、次のような内容が話されました。

・多種多様な樹種の森林。土地適性を考えた針広混交林。
・手間やコストがかかってしまう維持作業は極力無くしていく。
 例えば、「植林」は、手間もコストもかかる。
 土壌を壊滅的に破壊する皆伐は、止める。
 代わりに、新しい木の天然更新ができるような世話をする。特に獣害に気を付ける。
・木材を使いやすくするために、土場→製材所→工務店、となるべく直接に取引して、木材利用をしやすくする。外材との競争力を維持。
 原木は林業作業道の脇に置き、直接取引をした製材所のトラックが回ることでコストをカットしている。
・地元で最大限に木材利用をするのを、大事にする。
・なによりも、きちんとした森林道を作る。真ん中を盛り上げたり、排水路をきちんと設計して、何年も維持される道を作る。
・間伐は、質の良い勢いの良い残す木を選んで、その周りの2番手3番手を適した範囲で行なう。細い木をわざわざ搬出するのは余計なコストなので、太くなってから搬出する。
・木漏れ日の量が様々になって、多様な樹種の混じることで将来の需要変化にも対応できる樹木のポートフォリオができる。
・森林作業の安全講習を第一に行う。教育制度がしっかりしている。
・木材として使うことを最優先にして、バイオマスのエネルギー直接利用は極力行わない。あくまで、カスケードの一番下の木材搬出時の廃材利用という視点で計画する。
・多種多様な美しい森は、観光にもなる。市民の憩いの場ともなる。

また、参考資料として、次の池田さんのブログなどもご案内いただきましたので、ご覧ください。

職人教育
https://blog.arch-joint-vision.com/?p=305
https://blog.arch-joint-vision.com/?p=309
https://blog.arch-joint-vision.com/?p=312
https://blog.arch-joint-vision.com/?p=315

森林作業
http://blog.handwerk.jp/?p=1
http://blog.handwerk.jp/?p=17
http://blog.handwerk.jp/?p=20
http://blog.handwerk.jp/?p=59

報告
その他の池田憲昭さんのオンラインセミナー、ブログなどは、次のリンクをご覧ください。
https://www.arch-joint-vision.com/arch-joint-vision.html

●報告 第3回


第3回目は、平日夜の開催でしたが、70名近くの方が参加され、持続可能な森林が地域にあることで、まちの教育・観光・リクリエーション・そして、住み心地のいい住宅の建築、など、多面的な効果が現れていることを動画や統計数字を見て探りました。

●森林浴

・多くの人が楽しんでいるのは、ドイツでは有給休暇などが取りやすかったり、仕事が早く終わったりするからでしょうか。
→一ヶ月ほどの有給があるとともに、病気や子どもの病気は別に取れるので、きちんと消化する人が多いです。

池田さん:有給休暇を消化するのは義務です。
超過労働(週40時間を超える労働)も禁止です。
超過労働するのはオーナーくらいです。残業しなければ仕事を片付けられないのは、自分で仕事の管理と配分ができない、能力がない人間だと見られます。

●木造でパッシブでサステナブルな建築

・古来の土壁はどうなのでしょう?
→古来の土壁も調熱、調湿の機能があり良いと思います。

・呼吸、燃焼のための、新鮮空気も必要だと思いますが、そのための吸気はどのようにしているんでしょう。
→単純に窓を数分開ければ空気が入れ替わります。木や土が蓄熱しているので、冷たい空気が入っても部屋の中の体感温度はほとんど変化がないのです。
単なる高断熱高気密だけとは違うメリットです。
なお、暖房はほぼ使わずにすみますし、給湯・調理はオール電化なので屋内で燃焼はしません。

モンスーンアジアの高温多湿な環境から生まれた日本の木造建築も素晴らしいと思いますが、さすがに最近の温暖化には勝てないようですね

・最後に話のあった、接着剤のないCLT、オーストリアのトーマ社の「ピュアウッド」日本の代理店は実は、原村にあります。「自然の住まい」社です。
http://www.shizennosumai.com/purewood.html
: はい、家の近くにあります。新月の木で、家づくりごとで材料だけの販売はあまりしてないのようです。今度聞いてみますね。

池田さん:オーストリアのトーマ社のピュアウッドの代理店が長野にあるのは知っています。
ですが、中欧の木をオーストリアもしくはドイツの工場でパネル化して日本に輸入してやっています。
秋田の現在進行中のプロジェクトは、秋田の杉材で、異なる構造のCLT(接着剤なし)パネルでやります。

・日本では、石はコンクリートと同じように、結露が起こる可能性があると思いますが、気温、湿度のバランスでそのような状況が起きないでしょうか。
→断熱ができていないと結露は起こり得ますが、石だけでなく木や土素材も混ぜながら作れば、調湿も行います。

・窓の性能が良いのでしょうね。スリーガラスは日本では高価で手がでません。
断熱材にウールが入ってませんでしたが、こちらもお高い素材なので除けたのでしょうか。
→お高いということでは、伝統的な木や土を使う建築も高価です。初期費用が高価で後が節約/快適なのを求めるのかどうかではないでしょうか。

・ヨーロッパ、オランダで茅葺が注目され、実際の施工例があるようですが、ドイツでは、茅葺への注目はありませんか。

池田さん:茅葺屋根はとくに北ドイツにたくさんあります。
壁を藁ボールや藁ブロックでつくっているプロジェクトもドイツ、オーストリアにあります。

・石と土を混ぜ込んだ家が日本には適してるのではないかということでしたが、石は地震が起きた時に怖いという意見もありました。耐震性能はどうでしょうか? もしお時間あれば、よろしくお願いします。
→重量感のある建築は揺れに比較的強そうです。長年、残っている建築も多いです。
CLT工法は、地震の多いイタリアや日本でも耐震性能が確かめられてきています。

・元々家づくりは、その地域・国で入手できるモノで作られたようです。日本にはあまり石はなかったし、石造りの家が残っている国には、地震があまり無いところです。

●森林業に関して

・質問です。こういった道の所有者は誰でしょうか。森林の所有者(私道)?それとも公道ですか?
→森林の所有者は様々です。道の工事費は(それだけは)公的に補助があります。

・日本の木材(国産材)が外材(輸入材)に比べて価格が高いのは、流通経路が複雑なのが主因ですか?だとすれば、日本の林業関係者の利害関係が壁なので、絶望的ですね。池田さんは、どうすれば国産材が外材とせめて対等な価格になると思いますか?

池田さん:日本で国産木材(板や柱の製品)が高価なのは、加工、流通の経路です。
森林土場での原木価格は、ドイツも日本もほぼ同じです。
ですが、板や柱材の工務店着の価格は、2倍前後の価格差があります。それは日本の多段階の流通経路(市場や問屋)と輸送コストです。長野の材が一旦東京に行って長野に戻ってくるという商慣習があります。でも地域でコンパクトに加工流通の仕組みを作っている地域(例えば現在建築プロジェクトをしている秋田の東部)では、工務店は、ドイツ板材や柱材の価格とほぼ同じくらいで板や柱材を仕入れられています。

・岡山県の西粟倉村のローカルベンチャーの地域ブランディングの考え方から入らないと難しいと思います。

・森林は防災としての価値が建材としての価値の数倍あるので、自治体が森林を公共財と考えて、特に長野県は森林税?を林道作りや林道整備に積極的に活かしていくべきではないでしょうか?

→何から始めるか、道、だと思います。
 ドイツや欧州で作っている道の規格をご説明しましたが、日本ではその規格では補助がつきません。
 作業がしやすく、大量に早く材を運べて、水害でも壊れにくく、緊急時にも救急車がすぐ駆け付けられるような森林道が何より、最初に必要です。

池田さん:岐阜高山などでモデルとして日独共同でつくられた道は、現在も高山で林業専用道のカテゴリーで作設されています。100%の規格には残念ながらなっていないですが。
ただし、それをやるためには県の担当者の理解と特別な手続きが必要です。
林野庁が、ほぼ10年、すでに実証、賞賛されているこのモデルを、「例外的に許容」というスタンスでなく、国の一つの規格として正式に認めてくれれば、県の担当者や上司もやりやすくなると思います。

 

【セミナー告知文】
いま、森林の重要性が見直されています。

頻発する水害やスギ花粉、病害虫被害、林業従事者の継承、県産材の利用の拡大…
色々な課題があるなか、山林を大規模に開発しようという案件も増えています。
どう私たちは対応すればいいのでしょうか?

持続可能な森林経営によって、多種多様な針広混交林、土壌や水の豊さ、若者の憧れる森林事業、
そして、地元で木材を豊かに活用する術が出てきます。
そんな森林は実はカーボンフリーにも大きな貢献ができます。

実例があります。

ドイツの黒い森で、持続可能な森林のコンサルタントを長年続けてきた池田憲昭さんに、
オンラインでその基本をお伝えいただき、地元の大切な森林をどう維持して魅力をアップしていくか、
連続ワークショップで探ります。

■詳細情報:https://www.shin-ene.net/information/5105
第1回 ●8月22日(土)14時半~17時半
http://ptix.at/EiHxhy
第2回 ●8月29日(土)15時~17時半
http://ptix.at/EwFUkD
第3回 ●9月2日(水)19時~21時半
http://ptix.at/UCHUzS